Q 医学者たちがそういうことについて無自覚で、悪かったのでしょうか?
A 社会的な問題について無自覚な医学者や眼科医が存在したのも確かです。しかし、「学術の制度や組織の問題」を抜きにしてこれを論じることはできないのではないでしょうか。少なくとも、個々の研究者や医療従事者の至らなさの問題だと論難して済ませることはできない、問題をそう処理するとかえって解決法を導き出すことが難しくなる、と思うのです。
「自覚の必要」という「抽象的には正しい」ことがなぜ「現実的には正しくない」ことになるかといえば、それは、放置しておけば効率性とか安全の名のもとに特定部類の人々を排除しかねない社会構造や社会的習慣がそこにあり、検査結果が負の烙印とか最後通告になってしまいかねないから、です。本来なら、その社会を変えるのが、すべての人にとっての利益であるはずです。
とはいえ、そのことを認識するのは、社会学、少なくとも社会学を含む社会科学なり人文科学(歴史学とか人類学とか民俗学とか科学哲学とか)の任務だったはずではないでしょうか。
もとより、人文・社会科学の知だけで解決できることでもなく、本来、いろいろな分野が、知識や思索、さまざまな技術や方法論をもちよるべき課題なのだと思います。
眼科の専門家だけが、職業適性の判定、それにまつわる人権問題から社会認識、進路相談や人生相談まで引き受けなければならなかったとしたら、それはいかにも負荷が大きすぎたことだったのではないでしょうか。