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資料

石原忍 『小眼科学』より (5)

1977(昭和52)年『小眼科学』 (改訂第17版)

以下は過去に関する資料です。取扱にはご注意ください。

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 色覚

 色覚は26頁から始まり、そもそも色覚とは何なのかということから説き起こされている。いきなり「障害」から入っていた旧来のものとは、大きく異なっている点である。また、色覚の要素として色調・明度・飽和度が区別されるなど、かなり詳しい。

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 混色と補色

 次には「混色」および「補色」の説明がある。

 混色 スペクトル中の 余り離れていない 2つの単色光を混合すれば、これらの中間にある単色光に、ある量の白を混じた如き色を現わす。また色輪の相対する単色光を 一定の割合で混合すると 白色を感ずるようになる。かかる一対の単色光を 補色 あるいは 余色という……[略]……

 色が混ざる、とは、よく言うことだが、混色とは、厳密には、色の重なりを人間の眼がどのように認識するかということである。

 そして色には、「色光」(しきこう)の三原色と、「色料」(しきりょう)の三原色とがある。前者が光、後者が絵の具。つまり、みずから発光しているものと、みずからは発光しておらず反射しているだけのものとの、ちがいである。

 ここで述べられているのは「スペクトル」の中の「単色光」の混合、つまり「色光」の混色である。たとえば、赤と緑の光を重ねて照射すると私たちの眼には黄色に見える。こうした場合の「三原色」は、赤緑青、つまりRGBである。この三つの組み合わせ加減で、人間の眼に経験できる色光のすべてが作り出せる。たとえば「ピンク」は太陽光スペクトルの中の「単色光」ではないが、混色によって作り出すことができる。

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 色覚障害

 先天性と後天性の区別から開始されている点、先天性の色覚障害が「色覚の発育不全」によると説明されている点は、従来と同じである。
 ちなみに、私は幼い頃「発育が遅い」と親などからよく言われていた。それはここにその一端があることなのかもしれない。

 色覚障害の種類 色覚の障害には 先天性のものと 後天性のものとがある。先天性障害は色覚の発育不全によって起こるもので、後天性障害とは別種のものである。

 次にはまず後天性のものから説明がある。

 後天色覚障害 とは 種々の眼疾患によって 色視野に変化が起こり、部分的に または全視野に色覚が減退し または消失することがある。一般に 視神経の疾患には 赤と緑の色覚が早く侵され、網膜脈絡膜の疾患には 青と黄の色覚が比較的早く悪くなる(24頁)。

 次に、先天性色覚障害の概説と分類がある。

 先天色覚障害 は ほとんど常に 両眼に現れるもので、これには 色覚が全く欠損している 全色盲と、色覚のすべてが減弱している 全色弱と、赤緑の色覚が欠損して 青黄の色覚が健常である 赤緑色盲と その軽度な 赤緑色弱とがある。

赤緑色盲および赤緑色弱はさらにそれぞれ2つの型に分類されて、赤色盲1)緑色盲2)、並びに赤色弱緑色弱とになる(28頁)。

 次いで、フォントを落とし、色覚の成立する機構とその障碍の由来についての説明がある。(略)

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 全色盲

 その次の全色盲についての叙述は、従来の版とほとんど変化がないように思われる。

 全色盲 は甚だ稀にある異常で 全く色を感じない。それゆえ 外界の物が あたかも写真のように一色に見え、ただ 明暗や濃淡を 感ずるのみである(一色型色覚者)。その上 青色は明るく、赤色は暗く感ずる。弱視があって視力は通常0.1以下(多くは 約0.08)に減弱し、明るい所では 昼盲3)と羞明とがあって、瞼裂を細くし かつ 眼球震盪がある。
 両親が血族結婚であることが多い(図49)。
 全色盲の網膜は 錐状体の機能が欠けて 杆状体の機能のみが存在するものと 推定される。こう考えることによって 大概上に述べた症状を 説明することができる。なお 健常者が全色盲者と共に暗室に入って その目を暗順応状態(4頁)とすれば、両者の眼は ほとんど全く 同様の状態となることから 全色盲の眼は 暗順応眼と同じであることがわかる。

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 顔写真

 

 文中、「図49」に掲げられているのは、昭和4年版に掲載されていたのと同一の少年の顔写真だと思われる。だとしたら、なんと約半世紀も用いられたことになる。

 

 全色弱

 説明は次に「全色弱」に移る。

 全色弱 もまた 稀にある先天異常で、赤緑色覚と同時に青黄色覚も 減弱しているのである。しかし 色覚のほかには何等の眼の異常も現わさないものである。

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 赤緑異常の出現頻度

 次いで、赤緑異常がとりあげられる。

 赤緑異常 赤緑色盲赤緑色弱との境界は 劃然としてはいない。それゆえ この両者を総称して 赤緑異常と呼ぶことがある。赤緑異常は色覚障害の中で最も多いもので、わが国では すべての男子の約4.5%を占めている。女子には少なくて男子の約1/10である4)

 ここに付された注4)は、大正年間におこなわれた徴兵検査の結果である。『学校用色盲検査表』「解説」の時からまったく変化していない。また、「人種」による格差の指摘も同様である。すなわち、

 4)大正5年から同8年に至る4カ年間に 徴兵検査を受けた成年男子1,796,028人中に 赤緑異常者が79,871人あった。色覚異常者の数は 人種によって異なっていて、白人種には多く(約8%)、黒人種には少ない(約3%)(Garth氏)。

 この観点から見る時、1977年はまだ戦前に近かったのだと言える。

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 赤緑色盲

 次にポイント(文字の大きさ)をすこし落として、「赤緑色盲」についての詳述がある。

 文中、「図48」は、ここでは省いてあるが、色覚についての説明が詳しくなった分、ここでも記述量が増えている。

 赤緑色盲は 赤緑色覚が不完全であるにもかかわらず 青黄色覚には変りがなく、色覚のほかには 眼の障害は 何も認められない。そして赤色盲と緑色盲との相違は、赤色盲は 赤色とその補色の帯青緑色とが 無色に見え、図48〔a〕中の点線上の色はすべて無色灰色にみえ、点線にほとんど平行する直線上の各色はすべておなじ青灰色または黄灰色にみえる。 点線に近いもの程 不飽和 すなわち灰色に近い。緑色盲は 緑色とその補色の帯紫赤色とが 無色に見えることである。図48〔b〕中の線について 同様のことがいえる。したがって 両者は 臨床上似ているが、しかし 赤色盲には スペクトルの赤の端が短縮して見えるけれども、緑色盲には そういうことがない(別図8〔c〕図および〔d〕図)。 赤緑色盲は 赤と緑と灰色とを区別することが 困難であるから、ときどき緑葉と紅葉とを見誤り また果実の熟したものと 未熟のものと間違えることがある。しかし その欠陥が先天性であるから患者は自分の目の欠陥を認識しないのが普通で、検査を受けて始めて発見されることが多い。

 この段落の末尾部分、「赤と緑と灰色とを区別することが 困難であるから」以後は、古層とでもいうべき部分である。つまり、1929年(昭和4)年版以来、まったく変化していない。

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 遺伝

 遺伝についての説明は、旧来とそれほど変化していない。変化は、説明文が多少増えたのと図が加わったこと、くらいである。なお、女子からの遺伝という考えがここにも登場するが、しかし、「男児に遺伝」ではなく「児に遺伝」と変更されている。

 先天色覚異常の遺伝 赤緑異常には 遺伝的関係が認められ、伴性劣性遺伝1)である。すなわちその遺伝質は性染色体にあるが、女性では性染色体は1対あるので 2つの染色体が 共にその遺伝質をもたぬ限り 症状として発現せず、男性では1個あるのみであるから遺伝質があれば症状が発現する。したがって女子には本病の現われることが少なく、しばしば 健常に見える女子を通じてその児に遺伝する(図50)。

図50. 先天色覚障害の遺伝型式

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 検査法

 検査法については、アノマロスコープについての記述が大幅に増えている。

 先天色覚障害の検査法 には種々あるが、簡便で正確な検出には 石原式色盲検査表に及ぶものがない2)
 色覚の精密な検査には ナーゲル3)アノマロスコープを用いる。これは図51のような機械でその筒先きの小孔より覗くと 円形視野の上半に スペクトル中の赤(670mμ)、緑(535mμ)の各単色光が混合して、下半には 黄(589mμ)の単色光のみが現れるようになっている。この各々の光の量を他端のネジを回して加減し上下視野の色合わせを行なうのである。 すべて正常の人は 赤緑を一定の割合に混じた時に下半の黄と同じ感覚をおこすが、赤緑色盲では その割合を如何に変じても 黄と同じ感じがおこり、ただ明るさが異なるのである。また 赤色盲では 緑色盲より赤が暗く、緑は明るく感ぜられるので、その色合せの割合が異なり、両者を区別することが出来る。さらにまた赤色弱および緑色弱では 健常者と混合する赤緑の各々の量が異なり、黄と均等する範囲のひろいのが普通である(別図9)。

 注釈によれば、ナーゲル(Willibald Nagel)は、「ロストック大学の生理学教授であった人(1870〜1911)」とのこと。現ドイツの同大学はバルト海沿岸では初の大学(1419年創立)である。

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 色視症

 最後に色視症の記述になるのは、従来と同じである。

 色視症 色盲と反対に 無色の物体に 色が着いて見えることがある。これを色視症という。たとえば 強い光線を受けた後に起こる赤視症1)、サントニン中毒時に起こる 黄視症、白内障手術の後に起こる 青視症2)のようなものである。

 付されている二つの注釈は省略した。

 ちなみに

 ちなみに、昭和3年に発行された『小眼科学』の昭和4年増刷版の価格は10円。当時の物価水準だと、およそコメ一俵分にあたる。今日ならざっと1万数千円くらいだろうか。

 昭和52年のものは改訂17版のさらに8回目の増刷分で、「学生版」と銘打たれ、定価7900円。

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文献

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