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枠組みと具体策

 消防庁が採用試験前後に色覚検査実施を指示。支障「あるかもしれず」の何となくでは、やはりおかしい。
 何のためのという趣旨と、検査結果をどうするのかの対策についての説明がないと。

 『東京新聞』2018年10月30日より引用
 「総務省消防庁が九月、全国の消防主管部署に採用試験の前後で色覚検査の実施を促す通知を出していたことが分かった。これに対して、当事者団体である「日本色覚差別撤廃の会(荒伸直会長)」が反発し、「通知は、色覚による差別の復活につながりかねない」と見直しを求めている」


 【観点】 

 私は検査についてはいつも「誰のための、何のためのものなのか」を、考えるようにしています。

 「当人のため」とは石原時代から言われていることで、誰もそれを否定するわけがないのですけれども、その内実ーー意味や論理、実際の効果や結果ーーはどうなのか、と。

 【記事要約】

 報道によれば、全国消防長会が各消防本部に対しておこなった調査の結果、業務で色の識別が重要になる場面や対象が種々あげられた。色覚について何らかのチェックをしている消防本部は68.0%だった。

 その結果を受けて、消防庁は「色覚検査の基本的な考え方について」という通知を出し、「色が重要な判断要素になる場合がある」ので「色覚の状況を的確に把握しておくことは重要」とした。もっとも、実際に検査を実施するかどうかは「各消防本部」で「必要性を検討」する、と−−

 【印象】

 同調査において実際に支障が「あった」という回答は1.1%。

 昔からよくある「支障あるかも」論になっていないか、それが当事者を排除する方向に傾きやすくならないかと、危惧します。記事にも紹介されている「日本色覚差別撤廃の会」の指摘と、同感です。

 もちろん、命のかかった大事な職務ですから、「かもしれない」の万が一を考えて、懸念材料やヒヤリハット事案を細かにあげておく必要はあるでしょう。色覚にかぎらず、職員の種々の身体的特性について把握しておく必要もあるでしょう。それはわかります。

 それなのになぜ懸念を感じるかと言えば、それは、トップなり組織の「反省をふまえた方針」がはっきりしないから、ではないでしょうか。

 差別批判から何を学んだのか。それがはっきりしないままだから、「かつては差別だと指摘されたから検査や制限をやめたが、いまは検査再開の時勢に乗って復活か?」といった疑念を覚えてしまうわけです。

 【「サポート」の論理】

 差別を助長するのではないかとの指摘に対して、総務省は「色覚障害のある人が周囲からサポートを受けやすくなる」と答えているとのこと。

 サポートの論理という枠組の中でなければ通らないこと、承知されているのでしょう。それは、これまでの差別反対運動の成果であり、障害者差別解消法のある今日の状況の反映であって、進歩だと思います。

 【反省と意志】

 けれども、サポートの論理を出すなら、まず、以前の検査体制に関する反省がなければならないでしょう。篩い分け検査の結果で一律排除していた時代があった、それはまちがいであった、と。

 そのうえで、今後の方針についての意志が表明されなければならないでしょう。これからは多様性を尊重しつつ職員をしっかりサポートしてゆく、と。

 それが「枠組」の必要です。

 【具体策】

 サポートを現実のものにするためには、検査表による篩い分けや漠然たる「支障あるかもしれない」で済ませず、当事者の経験に即した検証をおこない、真に懸念材料があるなら、
 ・環境整備できるところはないか
 ・当人に対してどのような支援をおこなうのか
について「具体策」を検討することが必要なはずです。

 【「サポート」が迷惑顔していないか】

 そのおり「多様性の尊重」が大事な話になってくるでしょう。

 「サポート」は特権でも優遇でもなく、当然のものであること。誰をとっても、そのように配慮し合わなければならない特性は、色覚以外にもありうること。そう認めることが業務の的確な遂行と同時に職員の安全にとって重要であること、等々。

 このような考え方を現場の具体に即して広めなければ、「周囲からサポート」と言っても、当事者は、日本社会の至るところにあるのと同様、「同僚への負担になるのではないか」「自分は迷惑を掛けているのではないか」といった思いに苛まれ、いたたまれなくなるでしょう。


【まとめ】

 1)枠組としての歴史の反省と今後の方針

 2)多様性の尊重に関する認識

 3)サポートの具体策

 これらが見えなければ、「サポート」も空文句になりかねないし、否定的な作用をしかねないと思います。


原形は日本色覚差別撤廃の会の会報『CMS-Letter』No.57掲載。
2018年11月8日 facebook
 

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