注意:以下は過去に関する資料です。ご注意ください。
「東京医科大学式色覚検査表」は、1957年5月に「村上色彩技術研究所」から発行されたものである。翌年から学校保健法による色覚検査が実施されてゆくことになる時期。
作成意図
冒頭、その意図が次のように説明されている。
先天性色覚異常者(色盲と色弱)は男子の7%、女子の0.5%に見られ、その数は決して少いものとは云えない。従来の色盲表は之等の人の検出を目的としたもので、優秀な色盲表であればある程、多くの色覚異常者が検出され、その結果それらの人々は、仮令他の才能が如何に優れていても、多くはその職場から拒まれる運命となっている。勿論、色覚異常者が他人に災害を及ぼすが如き職場に従事することは困るのであるが、色覚異常者であることを必要以上に強調し、それだけの理由で優秀なる人材を葬り去ってしまうということは、私共の黙過しえないところである。色覚異常には色盲から強、弱の色弱に至る迄その程度に相当の幅があって、極めて弱度(軽度)の色弱に於ける色覚は、殆ど健常者のそれに類似している。従って、そのような人ならば大抵の職場に受け容れられてよい筈である。
私共が企画したこの色覚検査表では、色覚異常者の検出に止まらず、その種類を分類し、その程度をも判定が出来る。私共の念願するところは、これによって少しでも色覚異常者が救われ、適当な職場に就くことができるところにある。どのような職場にどの程度の色覚異常が許されるかについては、今後の研究にまつ所が多い。この点に関しての具体的なことは眼科等専門医又は私共迄御相談賜りたい。
色覚差別撤廃の観点からは、厳格な色覚検査による色覚少数者の部類分けの例として参照されることが多いものだが、このように当時の作成者の意図としては、理不尽な就職差別をなくすため、色覚異常の「程度」を判定し、特にその軽度・弱度の色覚少数者に可能な職業をリストアップするというところに力点が置いており、その意味で色覚少数者を救済するべきものであった。
この当時における作成者の意図の時代的文脈と、今日的観点から見た場合の評価とを、とりちがえてはならない。すなわち、歴史をふりかえる時の一般的原則として、当時としてはこれが救済策と理解されていたことが重要なのだが、しかし、その理解の歴史的文脈をわれわれが理解したからといって、だからそれが今日でも正しく通用する等と言いうるわけではない、ということである。
また、当時を見る場合にも、作成者の意図と、その社会的結果とも、区別しておいたほうがよいであろう。
すなわち、作成者の意図において、問題の根源は色覚異常を「必要以上に強調し、それだけの理由で優秀なる人材を葬り去ってしまう」ような世間にあろう。作成者たちは、それに対して、いわば正しく厳密な色覚検査の必要を説いているわけである。
しかし、翌年から全児童に対する一斉検査が制度化される社会にあっては、その検査そのものが制限の正しい根拠を与えてしまうであろう。つまり白か黒かの判定材料として通用しうるだろう。
この資料が重要なのは、その意図を具体化すべく末尾に職業分類一覧表を備えていたことであった。その中には、可能な職業のリストばかりではなく、制限されるべき職業、注意すべき職業が、事細かに挙げられている。これで世間に「必要以上に気にするな」とは、言い得ないであろう。むしろネガティブに作用することが大いに予想できる。
その付表を以下に掲げる。「色覚異常の程度」によって職業適性を一覧にしたもの。原典参照のうえ表記法などは現代風に改めた箇所がある。
色覚少数者の部類分け
まず、色覚異常の程度によって、職業が次のように4つに分類されている。
a)甲類: 色覚異常があると人命に係わることがある職種で、第1度の異常者でも就業させないほうがよい。
b)乙類: 色覚異常があると仕事の遂行に重大な過誤を来す職種で、第1度の異常者なら就業させてもよいものから、健常者のなかでも特に適性のある者を選択する必要があるものまでの職種が含まれている。
c)丙類: 色覚異常があると仕事の遂行にやや困難を感ぜしめる職種で、第1度または第2度の異常者まで就業を許容しうる。
d)丁類: 色覚にほとんど関連のない職種で、異常者であっても就業してさしつかえない。
注意しなければならないのだが、この色覚異常の程度に応じた職業分類は、色覚少数者の部類分けでもある、ということである。それまでは、石原表によって、大きく異常か健常かだけが問われていた。それだけでは職業適性の判定には不十分だということで、こうした職業分類が必要になったものであろう。言い換えれば、ここからは色覚少数者が「軽度色覚異常」か「強度色覚異常」かに分類されることになったわけである。
職業分類
さて、では次にその職業分類を見てゆこう。
a)甲類には次の職業がリストされている。