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資料

色盲検査の歴史(2) 検査法のいろいろ 

以下は過去に関する資料です。取扱にはご注意ください。


検査表

 初期の色覚検査表は、研究者が作ったものを被験者がじっさいに見て、作り直してはまた見直し……といったように、「経験と勘によって作られた」(太田 1997: 40)という。石原表も、はじめは、なんと石原本人の筆による水彩図であった。これを正確かつ均一に再現する印刷術も相当の試行錯誤を重ねなければならなかったと推測される。じっさい、その表の多くが9度刷りとか10度刷りをしなければならないのだそうである(須田 1984: 19)。

 以下、画像を得ることのできたものに限られるが、太田(1997)に従って紹介する。

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 1910年
 小口氏色神検査表

 小口忠太が1910(明治43)年に作成。右のようなカードで試験を進める(小口は「カルタ」と呼んだ)。ナーゲル氏表の原理にならった。

 カードは原寸で7.5p四方、斑点をなす円一個が直径4o。70p〜1mの距離から色を判定させるもの。

 この「カルタ」を6部に分けて積み重ね、次の試験を重ねる。

  •  第1重積 赤緑色盲の検出 
  •  第2重積 高度色神減弱の検出
  •  第3重積 色神減弱の細分類
  •  第4重積 赤緑色盲の確定
  •  第5重積 青黄色盲および詐病の検出
  •  第6重積 色弱の精密検査 

 第1・第2重積のみ用いれば、短時間に色覚異常を発見できるとされる(太田 1997: 40)。

小口1910 カード7
小口氏色神検査表 カード7
小口1910 カード8
小口氏色神検査表 カード8

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 1911年
 小口氏仮性同色表

 1911(明治44)年作成。スチルリング表を模範とした。日本で最初の本格的な色覚検査表であるとされる。

 表はぜんぶで20。ひらがな表が12枚、環状表が8枚。環状表にはランドルト図形(視力検査表のように円環の一部がとぎれた図形)を用いる。

 ひらがな表は18.5p×12p。色斑1個の大きさは、直径7o、5o、3o、2oの4種。環状表の直径は15p(太田 1997: 40)。

小口1911 第19表
小口氏仮性同色表第19表
小口1911 第17表
小口氏仮性同色表第17表

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 1913年 伊賀氏
 「新撰色盲検査表」

 伊賀文範が1913(大正2)年に作成。伊賀は東京鉄道病院に勤務し、のちに神戸鉄道病院眼科医長になった人。伊賀表ももっぱら鉄道関係の色覚検査に用いられたものらしい(太田 1997: 42)。

伊賀1913 第3表
伊賀氏新撰色盲検査表 第3表(第1類)
伊賀1913 第15表
伊賀氏新撰色盲検査表 第15表(第5類)

 表はすべてカナ文字。表の大きさは18.5p×10p。スチルリング表にもとづいて作られた。第2版以降はひらがな表。次のサブグループに分けられる15表(第2版から22表)から成る。

  • 第1類 赤緑色盲検出用
  • 第2類 赤緑色弱検出用
  • 第3類 青黄色盲検出用
  • 第4類 色弱分類用
  • 第5類 デモンストレーションおよび詐読防止用 

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 1916年 石原氏
 「大正5年式」色神検査表
石原1916 石原1916

 上は石原直筆の水彩による草稿。

 「大正5年式」と通称されている色盲表は、ひらがなと曲線を使うもので、陸軍専用だった。
 同じ原理で同年にカタカナ表が作られ、大正7年から「日本式色盲検査表」と名づけられた。
 昭和16年の第12版まで出された。

石原1916 日本式色盲表 第3表
 日本式色盲表、第3表
石原1916 日本式色盲表 第2表
 日本式色盲表、第2表

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 海軍省「色神表」(年号不明)

 全12表。ひらがな表が7、カタカナ表が5。

 ひらがな表は石原表に酷似しているというが、カタカナ表は千代紙模様で独自。

 発行年月日は不詳だが、1929(昭和4)年度の志願兵に対する身体検査で使われたことが報告されている。

海軍省「色神表」
海軍省「色神表」第3表
海軍省「色神表」
海軍省「色神表」第2表

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 1934年
 小口氏「最新色盲検査表」

 1934年に製作・発表。18表と3カードから成る。迷路表を含んだのは日本初。第2表は青黄色盲表である。

小口氏1934第2表
最新色盲検査表 第2表
小口氏1934第18表
最新色盲検査表 第18表

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アノマロスコープ

 アノマロスコープとは、簡略に言えば、色あわせのための器具。
 被験者がアノマロスコープをのぞくと、基準になる黄色い点が見える。機械を操作し、それとは別個に見えている赤い光と緑の光とを調合して、その黄色と同じくらい黄色と思えるようにする。その混合比を測定するという仕組み。

 つまり、緑と赤を感じる錐体の機能をこうして調べるためのもの。色覚異常の確定にはこれが不可欠とされる。

 以下、この項目は石川・若倉(1997)による。

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 1906年
 ナーゲル氏アノマロスコープ

 上は1906年ナーゲル氏考案アノマロスコープの原型。光源は石油ランプ。

1906年ナーゲル氏アノマロスコープ

 

 日本製 アノマロスコープU型

 中島実指導。戦後、高田器械店より発売された。

日本製アノマロスコープU型

 日置式アノマロスコープ

 日置隆一が改良した Anomaloscope U型。色の境界がナーゲル氏アノマロスコープと比べ左右になっている。戦後、半田屋商店より販売された。

日置氏アノマロスコープ

 日置式アノマロスコープ

 日置隆一(東京大学工学部)改良、中村康が指導。ナーゲル氏アノマロスコープを改良したもの。半田屋商品カタログより。

日置氏アノマロスコープ

 ナーゲル氏アノマロスコープ

 戦後のモデル

ナーゲル氏アノマロスコープ

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 その他の検査器・検査法

 1910年
 浅山式色神検査器

浅山式色神検査器

 1910(明治43)年、浅山郁次郎考案。

 見たところ、着色されたガラス板を重ね合わせて色光を混合させる機械だろうか。

 石川・若倉によれば、白井松之助より当時2円50銭で販売。1938(昭和13)年頃にも岩佐商店より「浅山式色神検査器」の名称で販売。(1912(明治45)年、白井松之助編『医療器械図譜』第4版)。

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 1934年
 色神検査用色硝子板
色神検査用ガラス板

 1934(昭和9)年、石丸重信考案。高田商店製。木製枠(1円)・金属製枠(2円50銭)の2種あり。(1938、『光』86号、61頁)。

 同様に、着色されたガラス板を重ね合わせて色光を混合させるのであろう。

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 1913年頃
 小川式色神暗点計

 小川式色神暗点計。1913(大正2)年頃、小川剣三郎考案。当時65銭で販売された。(『日本眼科学会雑誌』17巻3頁の広告)

 ポスターの内容を抜き書きしてみると、次のようになるだろうか。

 ……[略]……小川博士の考案せる色神暗点計は携帯に便なる黒色の長わずかに3寸に満たざる小稈にしてその両端において径2ミリと径7ミリとの白、赤、青、黄、緑の色子を有するものにして検者と被験者と対座し両眼を正しく相対せしめ両者相対せる一眼を閉じ(検者の右眼被験者の左眼)検者はその眼前検せんと欲する色子を右示指にて隠しつつあり、被験者の一眼正しくこの色子の方向にありと見たる時示指を去りつつ、急に被験者に問うべし、如何なる色が眼前にありやと白色よりして順序検者進ましむ、先ず大なるものを以て検し疑しきときは小なるのを用う、これによって絶対的および比較的白色および中心暗点を検出することを得べし

 つまり、この色神暗点計は長さわずか10p以下の小さなもので、両端に白・赤・青・黄・緑の色子がついている。その大きさは、一方の端のが2ミリ、他方の端のが7ミリである。検者と被験者は向かい合って座り、正面にくる片側の眼をおたがいに閉じ(たとえば検者の右眼と被験者の左眼)、そのとき検者はこの「色神暗点計」をかざして人差し指で色子を隠す。被験者の眼が正しくこの色子のほうを見ていると見れば、隠した指をとりさって、「何色が見えますか」と問う。これを順にくりかえし、まず大きな色子のほうで試し、あやしければ小さなほうへと進む。

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 A式色票排列検査器

 A式色票排列検査器 戦後、木村俊夫考案。書き写してみると、以下のようになる。

 本器は茨城大学教育学部心理学研究室、木村俊夫先生御考案による、色神検査法に基づいて製作致しました検査器具で、従来の検査器具によるあらゆる欠点を補い、色盲色神検査の方法として画期的なものであります。即ち弁色能の品等評価あるいは色全体にわたる弁別の具体的、直観的表示等が簡単に見出せることが出来、しかも器具および測定の簡単さ価格の低廉等です。
 本器はそれぞれに彩度は同じで色相のみ異なる色票を嵌めこんだ40個の色牌と、牌盤、記録整理用紙および検査手引きとより成る色神検査を兼ねた色相弁別力検査器です。検査は被験者に色牌を色相順に牌盤の溝に沿うて並べさせた結果を、環状プロフイルに現するのです。
 かくて石原式学校用色盲検査表では判別出来にくい赤盲−緑盲、全色盲−黄青盲、黄盲−青盲(各種色弱をも含めて)の判別も可能であり、また健常眼者の色相弁別能力検査もできます。従って本器は眼科学的診断具たるばかりでなく、顔料、染料、塗料、クレオン、化粧料工業のみならず、高度の色彩弁別力を要求する職場における適性検査器でもあります。色彩作系はマンセル色票系を採り、原理は Farnthworth-Munsell 100 Hue Test と同じですが検査を簡便化すると共に普及性を大にしたことが特徴です。

 ちなみにお値段は80万円(付属品として使用説明書1、記録用紙20部、補用色紙1組、色紙入替具1とある)。同様のもので80色のものが150万円。

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 文献

■ 2007年06月01日版
■ 2016年2月ミスタイプなどを修正。

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