石原忍の主著の一つに『小眼科学』がある。
初版は1925(大正14)年の発行。主として学生用に、眼科学の大要を系統立てて理解しやすく叙述したもの。
その網羅的な内容にもかかわらず石原の単著である。が、これは著者が序文でも「教室医局員諸氏の多大なる助力を得た」と述べているように、教室員の協力によってなされたものであろう。それゆえかどうか、販売収入は石原のものとせず、医局にプールして財政健全化に寄与することになっていた。
スタイルは斬新だ。
医学教科書で初めての横書き(奥沢 1997: 165)。当時としては「画期的な」もの(岡島 1997: 330)だとされる。その他にも、フォントの細かな使い分け、分かち書き、カラーの図・表、写真やイラストレーションの多用など。
この出版のために集め始めた図や写真をあとでまとめたものが1932年の『眼底図譜』、1935年の『眼病図譜』である。
初版後も細かな改訂で新知見をもりこみ続け、1963年に石原が没した後も彼を「創著」として版を重ねた。
眼科学の世界では半世紀以上にもわたる命脈をたもって文字通り一時代を築いた古典的教科書だと言えるのだろう。しかし、2007年9月現在は、ウェブ等で探しても新品は見あたらず、1991年の第22版を最後に新版も見あたらない。
私がこのたび参照することができたのは、図書館や古書店などから得たもので、次の各版である。
- 石原忍、1929(昭和4)年、『小眼科学』(第2版)、金原商店。A5版、本文274頁。
- 石原忍(著)、石錫祜(翻訳)、湯爾和(校訳)、1932(昭和7)年、『眼科学』、同仁会。[中国語版である]。
- 石原忍、1934(昭和9)年、『小眼科学』(第4版)、金原商店。A5版、本文304頁。
- 石原忍創著、鹿野信一改訂、1977(昭和52)、『小眼科学』(改訂17版)、金原出版。B5判、本文と付録で346頁。
いずれも第1編が「眼の機能およびその障碍」、第2編が「眼病の診断および治療」といった構成で、色覚問題は第1編第3章「色覚」でとりあげられている。
以下は、各々からのその部分の抜粋である。
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