夕闇迫れば

All cats in the dark

■ ホーム >  エッセイ(第5集)  > 警報の色

 *以下、「警報の色a・b・c」は、改定ののち同趣旨の内容が拙著に収められています。


警報の色 a

 大津波警報の色。これまでは色覚に配慮していなかったのだという。何のための色覚検査だったのか。また、色覚への配慮が色分けだけに頼る姿勢を強めてしまってはいけない。

 100年とすこし前の人々に「警報の色」と言えば、今の私たちが「サスペンス映画の匂い」とか「交響曲の肌触り」のような表現に出くわしているような気分になるかもしれない。緊急の警報がなされるようになったこと自体がおそらく全国的な気象観測体制の整備やラジオの普及を待たねばならなかっただろうし、さらにそれに色がついたのはカラーテレビが普及した後のごく最近の出来事であるに違いないからだ。

 警報だけではない。私たちの文明は、いかに多く急速に、「色分けで(そして色分けだけで)メッセージを送る」技術を作り上げてきたことか。そしてその大多数が、人間の色覚特性の違いに配慮することなく、普及してしまったのである。

 上へ hana

 東日本大震災の後、津波警報の色をテレビ各局が統一することになった。これまではばらばらだったし、色覚障害などにも配慮していなかったのだという。

 「統一のきっかけになったのは昨年2月のチリ地震。1993年の北海道南西沖地震以来、17年ぶりに「大津波警報」が出された。「大津波警報」「津波警報」「注意報」が、赤、黄色、オレンジ、桃、白など局によってまちまちの配色で表示された。全国で長時間、津波速報の画面が放映され、色覚障害者からは「大津波と津波を見分けられない」などの指摘があった」(asahi com. http://www.asahi.com/national/update/0818/TKY201108180171.html、2011年8月18日15時3分付、2011年11月最終閲覧)。

 「NHKなどは昨年夏ごろ、「色のバリアフリー」を提唱する伊藤啓東大准教授らに相談。アドバイスを基に各局担当者が話し合った結果、画面上で色覚障害者が識別しやすいように、大津波警報が出された地域の沿岸部は紫色、津波警報は赤色、津波注意報は黄色、さらに日本列島の地図は灰色、海は濃い青色とすることに決まった」(『河北新報』2011年8月19日)

 「国内には色覚に障害がある人が約320万人、水晶体が濁って色が見分けにくくなる白内障患者が約150万人と推定され、テレビ局も改善を検討していた。」(上記 asahi com 記事)。

 けっこうなことではあるし、検討を考えていた関係者には深く敬意を払いたい。だが、厳格な色覚検査を積み重ねてきた社会のこれが現実だったのだと、改めて認識しなくてはならない。
 いったい何のための検査だったのか。それは、当事者の福利を考えてのものではなく、むしろやはり、かつてある眼科医が述べた言葉にあるように、色覚少数者の存在を「公益上の問題」だと考えて排除するためのものだったのではないか、と。

 いや、色覚異常がどうという以前に、これは人間工学的発想が色合いについてどれほどあったのか、という問題だったと言っても過言ではないように思う。

 

 上へ hana

 情報はできるだけ異質の複数の手段で伝えるのがよい。テレビなら、色分けだけではなく、当然、文字でも表示するべきだし、色のラインも太い細い、点滅などの変化を持たせることはできないものか。もちろん音声が伴うのも大切だろう。

 しかしながら、上記ニュースは文字や音声との連携を伝えてはいない。「カラー=バリアフリー」が、ますます、「色分けでメッセージを送る」態度を強めてしまうとしたら、それは残念な事態だ。「色分けだけには頼らない」。それが万人にとって見やすい表示であるはずだ。「ユニバーサル=デザイン」とは、そのためのものであるはずではないだろうか。

2011年11月、2012年6月

警報の色 b

 海水浴場の津波警報。まず視覚的な手段の導入を。旗と発煙筒など複数の手段の組み合わせを。

 海水浴場の津波警報の伝達方法。

 気象庁が2012年の3月から4月にかけて全国の海岸線のある都道府県および市町村の担当者を対象として調べたところ、587件の回答があった。うち、視覚的な手法を取り入れているのは35件。そのうち、赤旗が16件、オレンジ旗が13件、赤色回転灯が4件などなど(気象庁、2012年5月閲覧)。
 報じた新聞は「赤、オレンジ、黄、回転灯、発煙筒……旗の色・手法 バラバラ」と見出しを付けた(『河北新報』、2012年5月16日)。

 上へ hana

 海水浴場について、視覚的な伝達方法を採用しているのがたった35件にすぎないというのは、もっと驚いてよいニュースだろう。

 統一されていないのも困るが、そもそも導入されていないのでは話にならない。見出しは「視覚的手段、1割未満」などとするべきであろう。
 本文では、「視覚的に伝え避難を呼びかける手法は……統一されておらず、導入済みのケースも少ないことが……分かった」と表現しているのだが、やはり驚く順番が逆であるように思う。
 色弱対応などの文脈を気にしすぎていないだろうか。

 いや、それどころか、同調査によれば、避難を呼びかける手段を「整備していない(整備の計画もない)」という回答が27件、つまり7%(1)程度ある。東日本大震災の後も、津波の危険を伝える手段が全くない(整備の計画もない)海水浴場が存在するのである。となれば見出しは「海水浴場7% 警報伝達手段なし」だろう。

 上へ hana

 さて、視覚的手段を整備している35件の内訳を詳しくみると、複数回答で35件が何らかの「旗」を整備している。その「旗」が赤、オレンジ、黄、文字など「バラバラ」なのだが、これと「電光掲示板」(3件)「回転灯」(4件)「発煙筒」(赤、黄あわせて4件)などは区別し、後者は少数ながら積極的に評価してよいことではないだろうか。

 というのも、これらには発光動きなどがあって、旗よりも気づきやすいという長所があるように思うからである。ことに、停電の可能性や導入コストを考慮すれば、「発煙筒」は、メリットが大きいと想像できるのだが、どうだろう。

 「統一」も必要だろうが、どのように統一するかの方向性がそこに示されているように思う。単一の手段に頼らない、ということである。情報はできるだけ異質の複数の手段で伝えるのがよい。
 つまり、「旗」プラス「発煙筒」、できればプラス「電光掲示板」や「回転灯」である。サイレン等の音声が加われば、もちろん、さらに良いだろう。

 上へ hana

(1)この調査の対象となったのは、全国の「海岸」を持つ自治体であって、「海水浴場」を持つ自治体ではなく、したがって回答には「非該当」がかなりある。すなわち、回答中184件は「海水浴場がない」。だから回答587件のうち問題となるのは403件だろう。27件は403件中の6.7%にあたる。→本文へ

2012年5月・6月

警報の色 c

 ウェブサイトでの津波警報の色。色分けだけに頼らずに。

 2012年5月には、警報の色について、もう一つニュースがあった。すなわち、気象庁のウェブサイトで地図に示す警報や注意報の色使いを改善するというもの(気象庁発表、2012年5月閲覧)。簡単にまとめたら次のようになるようだ。

 大津波警報: 従来は赤だったが紫に変更。
 津波警報: 従来はオレンジ色だったが赤に変更。
 津波注意報: 従来は黄色、今後も黄色で、変わらず。

 これは危険度に応じて統一感を持たせるとともに、高齢者や色覚障害者などが判別しやすいようにするためのもの。だから、台風や大雨の危険を示す情報も、危険な方から紫、赤、オレンジ、黄の順となる。赤と緑を同じ図の中で使うといったことも避けるようになる(『河北新報』2012年5月25日付)。

 この改善にあたっては、色覚障害者へのアンケートや専門家の意見を参考にしたという(ウェブ版日本経済新聞、2012年5月30日閲覧)。

 別のメディアによれば、これが「赤紫」「だいだい色」と表現されている(たとえば、47ニュース、2012年5月30日閲覧)。

 もともとの気象庁発表では、「赤紫」「橙色」である。さらに細分化して「青味がかった赤紫色」、「赤みがかった赤紫色」など、もちろんRGB値指定がある。資料には見本も付されている。

 上へ hana

 配色上の配慮がなされるのは良いことだろう。だが、気象庁発表の中に、やはり「文字」の文言はない。ウェブサイトなのだから当然ながら文字も入っているだろうが、他の手段との組み合わせが最も大きな「色のバリアフリー」ではないだろうか。

 なんらかの事情でプリントアウトしたいがプリンターが万全ではない状況など、いくらでもありうることだろう。ウェブサイトの最大の弱点は、パソコンがないと見られないということなのだから。そのとき、色分けについての「凡例」だけでは、意味がない。画像と文字をどのように組み合わせるのかは重要なポイントであろう。

 「色覚障害者」への配慮に傾斜したあげく、「万人にとって」の発想が、弱くなっていないだろうか。後者が結局は前者にとっても良いはずだと思うのだが。

2012年6月
 

 上へ hana