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資料

石原忍 『小眼科学』より (4)

1934(昭和9)年『小眼科学』 (第4版)

以下は過去に関する資料です。取扱にはご注意ください。

 凡例

 先ほどと同様。ただしアンダーラインは省いた。注釈の原則は従来通りで、また、重複を避ける。

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 第4版の序

 次のような序がある。

 本版においては第一版に掲げたる編纂の目的ならびに方針に向って若干の改進を試み可及的本邦における業績の採用に努めなお了解を容易ならしむるために図画を増加したり。また先年日本眼科学会ならびに資源局において選定したる術語を採用せり。しかれども浅学不才なお足らざるところ多し。将来ますます改良に努め以て漸次当初の目的に副わんことを期す。
 昭和九年 陽春 著者識す

 書物の構成は旧版と同じである。「色神」についての説明は、30頁から始まる。

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 色神とその障碍

 まず、最初の項目【47】は、色神の障碍の先天的と後天的との区別についてである。やはり、色盲・色弱の原因は色神経の「発育不全」に求められている。

 【47】 色神の障碍には先天性と後天性とあり。先天性障碍は色神の発育不全によりて起こり、後天性障碍とは全く別種のものなり。

 次の【47】項は、色覚についての一般的な説明である。

 【48】 色神は網膜円錐体の機能なるをもって視力と同様に視野の中心部が最も佳良にして、周辺部に至るに従いて不良となる〔5〕〔23〕。

 【49】【50】は、「眼疾患」および「後天的色神障碍」についての叙述である。略す。

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 先天性色神障碍

 まず【51】項は、先天性色神障碍の概略と分類である。

 【51】 先天色神障碍はほとんど常に両眼に来たり、色神の全く欠損せる全色盲と色神のすべてが減弱せる全色弱と赤緑の色神が欠損して青黄の色神が健常なる赤緑色盲とその軽度なる赤緑色弱とあり。赤緑色盲および赤緑色弱はさらに各々二つの型に分類せられ赤色盲1)と緑色盲2)と赤色弱と緑色弱となる〔58〕。

 ここに付されている注釈の1)2)は、「赤色盲」を「第一盲」、「緑色盲」を「第二盲」と呼ぶとの補足である。

 次に、ヘルムホルツ説にもとづいて、その概略が説明される。これは昭和4年版にはなかった説明である。

 【52】 色神異常の本態に関してはヘルムホルツ氏三要素説最も真に近し。すなわち色神の基礎的機軸として三種の要素の存在を推定す。その第一要素はスペクトルの長波長(赤)部において、第二要素は中波長(緑)部において、第三要素は短波長(紫)部において興奮の度最も強し。これらの要素の興奮する割合の種々異なるに応じて種々の色を感ず。しかして赤色盲はこの第一要素の欠如せるもの、緑色盲は第二要素の欠如せるもの、赤色弱または緑色弱はそれぞれ第一要素および第二要素の機能異常なるものとすれば、これによりて色神異常者の示す症状を最も都合よく説明することを得べし。

 その次に、フランクリンに従った色覚の発生についての説明と、色覚異常をひきおこす発育不全についての説明が登場する。

 【53】 色神の発育に関しフランクリン氏の仮定説によれば色神は無色に始まり、発育して三原色を感ずるに至るまでに次のごとき順序を経るもののごとし。
 この発育が中途において停止すれば前記のごとき各種の色神障碍を生ずべし。

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 全色盲

 説明はやはりまず全色盲から入る。

 【54】 全色盲ははなはだ稀なる異常にして全く色を感ずることなく、外界を見ることあたかも吾人が写真を見るがごとく、ただ明暗濃淡を感ずるのみなり。かつ青色は明るく赤色は暗く見え、弱視ありて視力通常約0.1に減弱し、明所においては昼盲1)ならびに羞明ありて瞼裂を細くし、かつ眼球震盪あり。両親の血族結婚なること多し(*41)。

 本文に付せられた(*41)は、「全色盲者」の顔写真2枚を指す(少年と若い女性)。

 また、ここに登場している「昼盲」は、昭和4年版にはなかった用語である。「羞明」とあわせて、注釈1)で補足がある。それは次のような文面である。

 1)昼盲とは明所において視力の減退するを言う。羞明とは強き光に対して過敏にして不快を感ずるを言い、視力には無関係なり(清水眞氏)。/全色盲者は瞼裂を狭小にして光線の眼内に進入するを制限するにより、明所においても視力減退せざるごとく見ゆれども、瞼裂を開大せしむれば明所においては視力著しく不良となる(清水眞氏)。

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 色盲と暗順応

 【55】項には、全色盲と暗順応との類似性が述べられている。

 【55】 全色盲の網膜は円錐体の機能を欠き杆状体の機能のみ存在するものなるべし。かく考えれば〔5〕によりて概ね前述の症状を説明することを得、なお健常者が全色盲者と共に暗室に入り[、]その目を暗調応状態〔5〕となせば両者の目は殆ど全く同様の状態となることにより全色盲が暗調応眼にほかならざることを知る。

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 色弱

 こののち、「色弱」の話題になる。まずは「全色弱」から。

 【56】 全色弱もまた稀なる異常にして赤緑色神とともに青黄色神もまた減弱し、その他になんら眼の異常を呈せざるものなり。

 色盲と色弱の境界は、次の【57】に言うように、やはり「明瞭ならず」だという。

 【57】 赤緑色盲と赤緑色弱との境界は明瞭ならず。ゆえにこの両者を総称して赤緑異常と言うことあり。赤緑異常は色神障碍中最も多くして総ての男子の約4.5%を占む2)。女子には少なくして男子の1/10以下なり。

 ここに付された注釈2)は、「男子の約4.5%」という数値の根拠としての徴兵検査の結果である。

 その注記に従えば、4年間のあいだに徴兵検査を受けたのが179万人余。そのうち「紅緑異常者」が「79871」人。わり算すると0.04447091……であるから、確かに約4.5%である。

 なお、この版には「人種」による差についても言及がある。それを含めた注2)は次のようである。

 2)大正五年より同八年に至る四箇年に徴兵検査を受けたる者1796028人中紅緑異常者79871人あり。/色神異常者の数は人種によりて異なり、白人種に多く(約8%)、黒人種に少なし(約3%)(Garth氏)。

 石原において色覚は目の「優劣」をあらわすものであった。彼は『日本人の眼』において、日本人に白人よりも色盲が少ないことをあげて、「色覚の点においても、日本人は白人よりも優れているものといえるわけである」と述べている(石原 1942: 67)。裏返せば、色盲・色弱は“劣った”色覚だと見なされていよう。なお、黒人に少ないことの指摘はあるが、しかし黒人がすぐれている、という表現はない。

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 図 

 また、ここに上記版にはなかった図表が挿入されている。


 別表U 健常者および色神異常者の見たるスペクトル


別表V 健常者および色神異常者の彩色したる図画

 上の図は、経年のうえ、スキャンをほどこし、画質調整もおこなったので、もともとの状態と一致しないことをお断りしておく。

 また、別表Vについては疑問がありうるだろう。すなわち、図画によれば、「赤色盲者」は、紅葉したモミジの赤い葉を暗い青色に描くという。けれども、だとしたら絵の具の赤も暗い青色と見て、それで彩色する(結果的に赤く塗る)ということは起こらないのだろうか。それがありうることだとすれば、必ず別表Vのようになるとは限らないように思われる。ここでの叙述は、対象物の色はとりまちがうが絵の具の色はとりまちがわないという前提がなければなりたつまい。
 −−つまりここには、色の知覚という問題と、別々の対象物の色の同一性の判定という、二種類の問題が、混在しているように思われる。

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 赤緑異常

 次の【58】項では、「赤緑異常」が説明されている。

 【58】 赤緑異常者は赤緑色神が減弱し青黄色神が健常なるものにして色神の他に何ら眼の障碍を認めず。しかして赤色異常と緑色異常との別は前者においては赤色とその補色なる帯青緑色とが無色に見え、後者においては緑色とその補色なる帯紫赤色とが無色に見ゆるにあり(別*1、別*2)。したがって赤色異常者にはスペクトルの赤端が短縮して見ゆれども緑色異常者にはこのことなし。

 次には、そのことが原因で起こる過誤と、その自覚が困難であることとが、述べられている。

 【59】 赤緑異常者は赤と緑と灰色とを区別すること困難にして、これがためしばしば緑葉と紅葉とを誤り、また果実の熟したるものと未熟のものとを区別し難きことあり。しかれどもその障碍が先天性なるをもって患者これを自覚せず、検査によりて始めて発見せらるること多し。

 次の【60】節は、遺伝の話題である。旧版とほぼ同じであろう。が、注1)にある図が付されている(*は、他の項目番号を指す)。

 【60】 赤緑異常には遺伝的関係あり。しかして女子には本病の現わるること少なきをもって本病がしばしば健常に見ゆる女子によりてその男児に遺伝することあり(性結合劣性遺伝*42)1)

 次の【61】項は、検査法についてである。

【61】 先天色神障碍の検査法は種々あれどもその簡便にして正確なる点において石原式色盲検査表の右に出づるものなし2)。色神の精密なる検査にはナーゲル氏のアノマロスコープを用う。

 注釈2)には、次のように記されている。

2)第十四回国際眼科学会(1933年)において身体検査の際における色神検査にはなるべくスチルリング氏仮性同色表と石原氏色盲検査表とを使用すべきことが決定せられたり。

 最後の【62】は色視症であり、内容的には旧版と同様だろう。

 【62】 色盲と反対に無色の物体に著色して見ゆることあり。これを色視症と言う。例えば強き光線を受けたる後に起こる赤視症、サントニン中毒の際に起こる黄視症、白内障手術後に起こる青視症のごとし1)。

 1)人の水晶体は別*134のごとく黄色なり。ゆえに白内障等にて水晶体を摘出したる後には青視症起こる。

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 奥付

 価格は「正価 ¥10.00」である。

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 ちなみに

 視力検査も石原式が高く評価され、これは今日に至っている。

 アルファベットのCをいろんな角度にしてみたような記号は「ランドルト環」と言い、石原の創案ではない。日本式に「コナルカロ……」のカタカナをあてたのが石原の創意。 彼は「万国式日本試視力表(著者作)」としている(写真参照)。

 写真の右端は乱視検査表。左端は文字・記号になじみのうすい幼児のための「万国式小児試視力表」。この二つも石原の創案(8頁)。

 なお、表の枠がごつく見えるのは、表を均一の明るさに保つため蛍光管を入れてあるため(これは他の研究者の創案)。

 

 視力検査のとき片目をふさぐ器=「遮眼子」も、石原式。

 『学校用色盲検査表』に掲載されている広告によれば、「東大型視力検査用遮眼子」。木製で漆塗りなので「頗ル軽ク」、「アルコール等ニテ消毒シ得テ頗ル軽便ナルモノナリ」。

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 リンク

 1929年(昭和4)年『小眼科学』(第2版)より

 1933年(昭和7)年、中国語版、『眼科学』より

 1977年(昭和52年)『小眼科学』(改訂第17版)より

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